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チャーリー・マフィンのアンチ・エイジング~最新作『顔をなくした男』

Posted by Ikkey52 on 30.2012 エスピオナージ・書評   0 comments   0 trackback
 英国人作家ブライアン・フリーマントルの傑作スパイ小説チャーリー・マフィン・シリーズの最新作「顔を亡くした男 上・下」を堪能。
 
 それにしてもこのチャーリーという男、いったい御年幾つになったのだろうかと考えてみる。記念すべき第一作『消されかけた男』の英国での出版が1977年。78年に『再び消されかけた男』、79年には『呼び出された男』と、矢継ぎ早に上梓されている。第一、第二作はとっくに自分の書棚にはなく、ようやく発見した『呼び出された男』を繰ってみると、田舎酒場の店主とカウンター越しに交わした会話が目についた。

 「48年からやってましてね」と店主。「戦争直後じゃないですか」とチャーリー。
 「そんなところです。お客さん、戦争へは…?」
 「ちょっと年齢が若すぎてね。ベルリン空輸時代だよ」
 「まるきり様子が違います」「そうらしいね」、と会話が続く。

 ベルリン空輸時代とは、1948年から49年にかけて。冷戦の激化から、ソ連が自ら支配する東ドイツ地域で治外法権になっている西ベルリン(西側占領地区)を日干しにしようとして、道路封鎖に踏み切ったことから、西側は大量物資の空輸で対抗した。陸の輸送路封鎖が意味がなくなり、結局ソ連が封鎖を解いてベルリン空輸時代は終わった。つまり、チャーリーは遅くとも1949年までには社会人としてドイツに初めて行ったのだと、告白している。もちろん、工作員経験の長いチャーリーが一見(いちげん)の人間に本当のことを話すはずもないが、店主はその説明を疑わなかった。見かけと矛盾していなかったからだ。一方、チャーリーは少なくとも1970年代後半には、英国情報部内では自他ともに認める現場たたき上げのベテランのはずで、それらを考え合わせると、どうも昭和ひとケタ生まれと考えて無理がないように思われる。
 
 最新作の背景は、ソ連はとっくに潰えており、ロシアはKGB出身のプーチン時代になっている。KGBも消えたが、ロシア連邦保安局(FRS)と名前を変えたに過ぎない。ウラジミール・プーチンがロシアのトップである第二代大統領に就くのは2000年のことであり、昭和ひとケタ世代はその時点ですでに66歳のはずだが、チャーリーは永遠の命が与えられた小説上の人物であり、モスクワ大使館に身分を隠して駐在するMI6の腐れ縁の相手デイヴィッド・ハリデイとの会話から類推すれば、せいぜい50歳そこそこにしかなっていない。

 宿痾の偏平足(?)からくる足の痛みのためハッシュ・パピーの靴を愛用していたはずだが、最新作では足の痛みは相変わらずでも、靴の種類までは言及されていない。最初の妻イーデスが殺されて一時独り身をかこつことになったものの、ロシアへの偽装亡命時代に自分の尋問を担当した縁で秘密結婚したロシア連邦保安局員ナターリアと、その間に生まれたサーシャは、モスクワ・ペカトニコフ横丁の高級アパートで健在だった。
 
 チャーリー・マフィンのファンは日本にも非常に多いだろうし、ネット上でも多くの人がその魅力を語ってはいるが、「サザエさん」や「ドラえもん」のようにある意味、変質狂的に細かく研究している好事家のサイトのひとつやふたつ、あってもいいような気がする。そんなサイトがあれば、最新作ももっと面白く読めるかもしれない。
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