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ギヤチェンジは成功したか…… 横山秀夫『ノースライト』

Posted by Ikkey52 on 13.2019 文芸批評   0 comments   0 trackback
 横山秀夫の新作、6年ぶりか。で、中身も検めず購入。あれ、待てよ。前半は記者や刑事の影すらない。そうか、これは横山のギヤチェンジ作か。失敗?いやいやどうして、堂に入っている。

 埼玉・所沢の小さな設計事務所に勤務する一級建築士の青瀬稔は、バブル崩壊によって都心にあった華やかな職場を追われ、気づけばインテリアデザイナーの妻とも離婚して、投げやりな心情を抱えている。月一度許されている小学生の娘との面会が生きるよすがで、食っていくために仕事をただこなす日々だ。そんな青瀬が設計し、半年ほど前に施主に引渡した長野県下の家が『平成のすまい二〇〇選』に選ばれた。珍しいことに施主から「あなたの住みたい家をつくってください」と最大級の信頼を口にされ、久々に情熱を注ぎこんだ物件だけに、青瀬も内心、代表作との自負がある。

 気になるのは、その施主、吉野一家からその後まったく連絡がないことだ。代金はすでにもらっていて不都合はないが、竣工まであれほど密に施主に会い、心を通わせたと思っていただけに、違和感は膨れ上がる。逡巡の果てに、思い切って現地入りした青瀬が目にしたのは、ひと気のない、そもそもだれも引っ越してきた気配さえない家だった。

 一家はどうして引っ越さなかったか。何かの計算違い、たとえば家庭内に不祥事でもあったのか。受注時に吉野が住んでいた東京・田端の借家はすでに引き払われている。まさか犯罪にでも巻き込まれたのでは……。青瀬はあれこれ想像をめぐらすが、どれも当を得ているとは思えない。

 もう一つ、青瀬の思念を去らないものがあった。主寝室にポツンと窓に向かって一脚置かれていた年代物の木の椅子だ。それは、他にまったく家財のなかった長野の家で、唯一の例外だ。腰かけたときのなんとも心地よい座り心地。その低い視点から窓に向かうと、立っていた時に見えていた山と雲が消え、青空だけが目に入る。吉野一家の行方と繋がる手掛かりがもしあるとすれば、それはその古い木製の椅子だけなのだと、青瀬は悟る……。

 「半落ち」が直木賞候補となりながら、北方謙三、林真理子ら訳の分からない審査委員に、ほとんど無理筋のイチャモンをつけられて落選した一件を思い出す。あとになって、直木賞選考委員会の言い分は間違いだとわかったが、とっくに別な作家が受賞しており後の祭りだった。横山の愛読者として悔しい思いをした。横山はその悔しさを「64」に込めて我々をうならせたが、「ノースライト」には、「64」ともまた違う感慨があった。主人公のヒリつくような内省は、これはもう誰が読んでも純文学の世界だ。新境地開拓は成功と見た。 

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