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ル・カレの孫娘が綴る独自の世界…『蛇の書』

Posted by Ikkey52 on 06.2017 文芸批評   0 comments   0 trackback
 古書と錬金術を下地とする知的ミステリの現代劇だが、率直にいって歯ごたえがありすぎた。それにしても日本版翻訳者、宇佐川晶子の苦労はいかばかりだったか。手元の辞典とネットですぐ答えが見つかるようなバックグラウンドではない。脱稿するまで血のにじむような苦行の日々だったろう。

 アナ・ヴェルコは27歳の古書研究者。彼女のことをルネサンス的教養人だと褒める同僚がいるが、衝動的で軽はずみな女とけなす批判者もいる。どちらも当たっている。ロンドンにある謎めいた金満の古書探索組織から魅力的なオファーを受けたアナは、ブックハンターとしてスペインのマヨルカ島に乗り込む。あれこれ調べるうち、自分が追い求めている中世の書簡と、10年前、つまり2003年にバロセロナで起きた不可解な女性連続殺人事件との不気味なつながりを発見する。

 それだけではない。19世紀のバロセロナで瓜二つの猟奇的事件が起きていたことも分かる。歴史の闇に消えた書簡の行方を知るには、現代の事件を解明することが近道と考えたアナは、バロセロナに腰を落ち着けて2003年事件の関係者をしらみつぶしに当たろうと決めた。2003年の事件当時、警察の捜査の中心にいた元刑事ファブレガードは、死体発見前に必ず犯人から犯行予告の手紙を送り付けられていた男で、仕事を離れたいまも事件解決の執念は全く衰えていない。アナからの接触を受けて、協力を惜しまない。

 一連の2003年事件の最後の犠牲者はバロセロナでは知らない者はいない天才女優ナタリア・エルナンデスだった。彼女の短い人生、不幸な生い立ち、美貌ゆえに彼女を放っておかなかった癖のある男たちのなかに、事件解明のカギはあると確信したアナは、中世の錬金術だの女預言者だのの話を、心の底では小馬鹿にしているリアリストの元刑事とは距離を置いて、自分の足で真相に迫ろうとするが、いつも何者かの視線を感じる…。

 スペイン第二の都市バロセロナは、スペイン戦争で独裁者フランコから土地の言葉カタロニア語を奪われた反骨の土地柄で、独立精神が横溢し、敗北したスペイン人民戦線の主要イデオロギーだった伝統的なアナキズムも死に絶えてはいない。ドイツ赤軍‐いわゆるバーター・マインホフ系グループのテロの記憶も残っている。中世、近代、現代のきな臭さが、ニンニクとオリーブオイルと黒ソーセージの郷土料理の香りや、粗削りなスペイン・ワインのアロマと複雑に交じり合う。

 情景描写の細かさ、街角の料理屋で供される食事のリアリティ、一人称で語られる若い女アナならではの肉体感覚…。魅惑の観光都市バロセロナを舞台にした知的ミステリの小品としてまとめても十分通用する中身だが、作者であるジェシカ・コーンウェルは、中世異端信仰や錬金術に関する蘊蓄に、それが例え自家薬籠中の物であっても、なぜここまで大きなボリュームを割り振ったのだろう。それでも、『ガーディアン』や『タイムズ』の批評子たちがこぞって本作を激賞しているというのだから、こちらの小説読解力の限界をあらためて痛感すべきか。ジェシカの実の祖父はあのスパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレ。血は争えないだろうと期待したのだが、孫娘には自分の世界があるようだ。
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