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「満洲引揚げの苦行」と「戦後日本犯罪旅情」のアマルガム…麗羅『桜子は帰ってきたか』

Posted by Ikkey52 on 05.2017 文芸批評   0 comments   0 trackback
 私事で恐縮だが、自分の母は、昭和20年夏の終戦を、祖父の転勤先である京城(現ソウル)で迎えた。引揚げ体験についてほとんど語ることはないが、京城の学校で机を並べ、あの夏休みに満州の実家に帰省したまま、消息が分からない友のことはときどき口にする。ソ連軍に占領された満洲、北部朝鮮からの引揚げ時の悲惨さは、さんざん語り尽くされてきた。

 麗羅著『桜子は帰ってきたか』は、満洲の北端、鶴崗県(現黒竜江省の一部)から内地を目指しておよそ千キロの道のりを踏破、終戦後わずか3か月ほどで朝鮮北部の清津近くに達し、日本に向かう小さな漁船を確保した日本人女性と朝鮮籍男性の脱出行と、終戦直後に起きた未解決事件が複雑に絡み合う、構えの大きいミステリーだ。

 1983年に文藝春秋から上梓された第一回サントリーミステリー大賞・読者賞受賞作の復刻で、本の腰巻に「究極の発掘本!松本清張+山崎豊子のド迫力!」とある。あまりにベタな表現なので店先で手に取ったときは笑ってしまったが、読了後、なるほど、そう表現するのがぴったりなのかもしれない、と思い直した。具体的にいえば『ゼロの焦点』と『大地の子』との超合金なのだ。

 著者の麗羅は本名、鄭埈汶。日本名を松本修幸という在日韓国人作家で、2001年に物故している。経歴がすごい。1934年に出稼ぎの父を頼って渡日。44年志願兵として陸軍入りし、北部朝鮮で終戦を迎え、共産系の再教育キャンプに収容される。収容所で南朝鮮労働党に入党し、韓国に潜入して李承晩政権転覆に向けて活動中、韓国警察に捕まった。

 拷問で背骨を3か所折られ、死刑判決を受けるが、父の賄賂に救われ、健康を回復して日本に密航した。朝鮮戦争で英語通訳として国連軍に志願し従軍した時期を挟んで、占領米軍基地のクラブマネージャー、パチンコ店員、高利貸し、不動産屋などの職を転々とした。作家として面白いものが書ける実体験を、これ以上ないほど持っていた人だった。

 作中、肉親捜しのため来日した中国残留孤児たちの話が出てくる。実際、孤児たちがやってくるのに先駆けて、ある時期まで、日本の主な新聞の丸ごと一面が、孤児たちの顔写真とプロフィール、おぼろげな手がかりなどで埋め尽くされたものだが、それさえすでに遠い過去の記憶だ。まして、大人として満州、北部朝鮮からの過酷な脱出行を体験した世代の証言者は、周囲では今やほとんど見つからない。

 植民地で暮らす宗主国民であったために、敗戦で一転、虐げられた者たちの怨嗟の的に貶められるという経験は、日本人にとって開闢以来の、異様に重たいものだ。今後も小説の背景に選ばれることはあるだろうが、本作のような緻密な筆さばきは同じ時空を共有した者にしか成し得ない、と考えれば極めて貴重だ。その意味では、ある種のノンフィクションなのかもしれない。実質的主人公なのに、あくまで控えめに見える朝鮮人青年クレの造形が特に見事だと感じた。
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