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2015年のパリで小津に一本撮らせたら?…仏映画「愛しき人生のつくりかた」

Posted by Ikkey52 on 10.2017 映画   0 comments   0 trackback
 学生時代に通った映画学校で、フランス語字幕付きの日本映画をずいぶん観せられた。フランス語字幕が付いていたのは、なんでも学校がパリの高等映画学院と人のつながりがあり、そこからフィルムを借りているためだと聞いた。フランス語が読めるわけでもないのに、洋画を観るときの癖で、つい字幕を追ってしまうのには辟易した。ただ、そこで小津作品を観た記憶はない。当時はヌーベルバーグの残照がまだ尾を引いていて、その作り手たちがこぞって小津をリスペクトしていていたことだけは、かろうじて知っていた。

 小津安二郎の代表作「東京物語」ほど、内外の映画評論家に語り尽くされた作品も珍しいが、お前が書いてみろといわれたら、たぶん頭を抱える。描かれているのは、1950年代初頭のありふれた日本の中流家庭のエピソードの数々だが、わかりやすい具象画に見えながら、実は哲学的な抽象画だからだ。2016年のフランス映画「愛しき人生のつくりかた」の感想を語るのも、同じ理由で厄介だ。夫を失った老婦人が墓地の埋葬に立ち会うシーンで始まるこの映画は、老婦人が死んで家族に見守られて埋葬されるシーンで終わる。なにしろ、人生の意味を語っているのだ。

 全体の語り口は、「東京物語」同様に平易このうえない。フランス庶民のありふれた日常が描かれる。夫のいなくなったパリのアパルトマンで、85歳になる老婦人マドレーヌは自らの人生を振り返る。3人の息子を育て上げ、不幸ではないが、かといって満ち足りていたかどうか。郵便局員として無事勤め上げた長男のミシェルから見れば、独り暮らしになった母のことは新たに増えた心配の種だ。ただでさえ、退職後の生活に夢が持てない。妻も冷たくなったように思える。

 ミシェル夫婦には作家志望でアラブ系の友人と2人で気ままな共同生活を送る大学生ロマンがいる。心優しい若者で、プチ・ホテルで夜のアルバイトに精を出す傍ら、祖母のアパルトマンを訪れては相手をする。マドレーヌ自身も孫息子に癒される。ミシェルは弟たちに説いて、母のマドレーヌを老人ホームに入れるが、マドレーヌは不満だらけ。息子たちが彼女のパルトマンを勝手に売却したことを知ると、ホームを抜け出し行方をくらます。長男ミシェルがパニックに陥るなかで、孫ロマンは、マドレーヌが出したハガキの消印から手がかりを得て、ノルマンディ地方に向かう。そこには彼女が幼少期を送った小学校があり、戦争中の疎開でそこを卒業できなかったことに彼女が心を残していたことを知る…。

 それにしても、普段着のくフレンチ・コメディというやつは、どうしてここまで小粋なのだろう。セリフにしても、妻となった女性を口説く際、ミシェルが吐いたという殺し文句「君は美しすぎる。二度と会いたくない…」。祖母を探す孫ロマンが、立ち寄ったコンビニで「どうすれば運命の女性と出会える?」と気まぐれに尋ねたとき、レジに立つおっさんが垂れた宣託、「待つことなく念じれば24時間以内に会える」など、この民族のセンスはちょっと真似できない。

 定年に達した郵便局員がよく似合った俳優は、ルコントの超名作「仕立屋の恋」の主演ミシェル・ブラン。「東京物語」の小津は似た役どころを置いてアクセントにしようとは思わなかったが、ルコント映画が求める偏執者の静謐と生真面目さを、最大限に表現した若い時期の禿げ頭は、齢を取ったらこう使う、という手本のようだ。かつて仕事で一度だけ足を伸ばしたノルマンディ地方の素朴な人情を思い起こしながら、封切り後、フランスで100万人を動員したという低予算作品の秀作を堪能した。
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