Loading…

スポンサーサイト

Posted by Ikkey52 on --.-- スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「汽水域」時代のスペインを描く超傑作…映画「マーシュランド」

Posted by Ikkey52 on 03.2016 映画   0 comments   0 trackback
 人物や風景に限らず、場面の空気まで描き出す映画があれば最高だと思う。スペイン映画「マーシュランド」には、全篇にわたって時代や土地の空気が濃厚に横溢していた。国内で高い評価を受けるのもわかる。

 1980年、スペイン南部・アンダルシア地方の湿地帯にある田舎町。祭り期間中にティーンエイジャーの少女姉妹が失踪し、若手で正義感のつよいペドロと中年のフアンの刑事二人組が行方を探す。姉妹は遺棄死体で見つかり、どちらも強姦され、拷問の跡も見られた。猟奇の手口だ。同じ町で姿を消した別の若い女性もバラバラ死体で見つかり、連続殺人事件の色が濃くなる。あえて幹となるストーリーをひとことで言えば、猟奇的連続殺人犯を追う刑事物語なのだが、この映画の一筋縄ではいかないところは、暗喩の多さだ。

 都会に残してきた身重の妻をしきりに気に掛ける堅物のペドロからすると、フアンは際限もなく酒を浴びるうえ、酒場で女とみればちょっかいを出さずにはいられない好き者。刹那主義にしか見えない。聞き込み先ですぐ暴力的になり、憲兵(フランコ体制の象徴)に宥和的なところもいけ好かない。フアンもまた都落ち組だが、持ちつ持たれつの関係になった記者からペドロは、フアンに良からぬ過去があると知らされる。旧秘密警察にいて、拷問のプロだったと…。実は、フアンはフランコの旧体制、ペドロは新体制の暗喩になっているのだ。

 時代背景がいかにも微妙だ。1980年のスペインといえば、内戦以来、強権支配を続けた独裁者フランコの死から5年。上からの民主主義が緒に就き、新憲法も成立したが、反フランコ派はまだ政権と距離を置いていた。海水と淡水の入り混じったいわば汽水域の時代だ。都市は軛から解き放たれたように爆発的発展を見せるが、対照的に田舎は変化の波に取り残され、古い秩序の残滓が人々の上に重く垂れこめていた。

 廃屋内部の白壁に大書きされた「フランコ万歳」の文字。川に浮かべた漁船の上で、日がな川魚のハラワタを捌く女占い師の不吉な忠告。形だけは共和国時代を思わせる工場での賃上げ要求団交と、フランコ時代に覚えさせられた工員たちの諦めのよさ。少女性愛とSMに使われると知りながら場所を貸し、カネのために口を噤む猟師宿の女将。高利貸しからの取り立てに怯える被害者姉妹一家の貧困と、父親の麻薬取引、母親の虚無。刑事二人の捜査を冷ややかに突き放す熱のない上司…。それらは全て、新しい時代の分け前にありつけない田舎町の苦悩の暗喩として効果を挙げている。

 結局、犯行の黒幕は誰なのか。ネット上の映画批評もずいぶん票が割れている。オープニングのタイトルバックは、人間の脳内構造を思わせる構図が延々続き、最後に湿地帯の空撮に溶け込む。アタマを使え、と作り手は観客を挑発しているのだ。ならば言ってやろう。これは無限に終わらないメビウスの輪だ。奴が黒幕だと決め込んだ瞬間、いや、そうではないと反論可能な構成になっている。あくまで客観描写を使いながら、黒澤の「羅生門」のような多元性、解釈の余地を残しているのだ。その割り切れなさこそ、この映画の真骨頂であるように思えるのだが。
スポンサーサイト


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://ikkey52.blog27.fc2.com/tb.php/362-e6ecb0fc

プロフィール

Ikkey52

Author:Ikkey52
ジャーナリスト 札幌生まれ
父方は、奈良十津川郷系+仙台伊達藩亘理系。母方は東三河豊橋系+肥前鍋島藩系+加賀藩系

ショッピング

トラベル

オークション

最新トラックバック

ラビリンス

デラシネ通信

ブログランキング

ブログランキング

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。