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クラウゼヴィッツと昭和の戦争

Posted by Ikkey52 on 08.2016 近現代史   0 comments   0 trackback
 「戦争は他の手段をもってする政治の継続にほかならない」。
プロシア時代の将軍カール・フォン・クラウゼヴィッツのあまりにも有名な『戦争論』の一節だ。では、いざ戦争というとき、政治家および将軍にとって、もっとも重要な判断は何か。「求めることのできないものを、その戦争において求めたり、押し付けたりしてはならない。これこそすべての戦略問題中の第一義的な、もっとも包括的な問題である」とクラウゼヴィッツは説く。

 明治新政府が誕生して以来、日本が交戦当事者となった対外戦争を考えてみる。国際的、国内的な諸事情から、政府が勝手に「事変」と言い換え、あるいは「事件」と呼んで矮小化を図ったものもあれば、大義名分あり、と見てストレートに「出兵」と表現したケースもある。それらも実態としては戦争に違いない。クラウゼヴィッツならどう評価したのか。

 落第点間違いなしなのは、昭和20年8月15日に終わった先の戦争だろう。始点は満州事変と見るのが妥当か。近代の満州がある種の無主物として列強の草刈り場になっていたことは、明治中期、ロシアに占領されていたことからもわかる。昭和初期の情勢も、軍閥は跋扈していたが、中華民国の支配が及んでいたわけではない。そこに日本は清朝の廃帝を担ぎ出して、正統性を装った傀儡政権を建てた。相当にお行儀が悪く、ある意味火事場泥棒的で、五族協和もお題目に終わったが、帝国主義の風が吹く当時の国際感覚からは、明白なアウトとまでは言えなかった。クラウゼヴィッツなら、そこでやめておけ、と釘を刺しただろう。政治の継続としてみれば、成果は余りあるもので、それ以上を求めてはいけなかった。

 満州国成立後、昭和天皇が日本軍に万里の長城からの南下を禁じたのも示唆的だ。その禁を破ったのは関東軍だが、もうひとつの不幸は、国際条約である北京議定書に基づき日本軍が米英仏伊の各国派遣軍とともに北京郊外に合法的に駐屯していたことだ。関東軍と支那派遣軍との競争心などもあって大陸全体への戦線拡大に歯止めが利かなくなる。戦争は別手段の政治なのだが、本来の政治(外交)にさっぱり戻りきれない。

 日中戦争の拡大は、アメリカを刺激する。石油で日本に圧力をかけた。岩瀬昇の『日本軍はなぜ満州大油田を発見できなかったのか』によると、この間、日本陸軍は学者や石油専門家を集めて、露蒙国境や満州南部での油兆地探査を必死で行っている。ただし、油兆が見つかっても、油田からまとまった量の原油が産出されるまで、相当な時間がかかる。すでに軍艦を動かし、戦車を走らせている国の戦略の無さに呆れる。

 国民革命軍を深追いし、日本軍が仏印に至ると、日本はアメリカから石油供給を完全に断たれ、アメリカを敵として戦端を開くしか選択肢がなくなる。石油というエネルギー源だけを考えれば確かに自存自衛の戦争だが、侵略を自己目的化したような日中戦争をやめれば、アメリカとの角逐は一気に小さくなる。小さな島国に過ぎない日本が、巨大な中国を意のままに操ろうとするのは、クラウゼヴィッツいうところの「求めることのできないもの」ではないか。

 そもそもアメリカ世論は、国民大半のルーツであるヨーロッパ諸国がナチスに蹂躙されようと、参戦には二の足を踏むほど戦争には慎重だった。まして、イギリス、フランス、オランダのアジア植民地が日本に侵略されても、アメリカ国民が立ち上がる動機には全くならない。参戦による戦争特需が欲しいルーズベルトからみれば、、たった一撃で世論を変え、対日参戦へと沸騰させた真珠湾攻撃はまさに天佑だったろう。
 米政府からの最後通牒になったハル・ノートが、日本軍に対し無条件撤退を求めた「中国」。その「中国」の範囲に、満州国が含まれるか否かは微妙だったが、上記と同じ理屈で、中国から撤退した日本が満州国からは手を引かなかったからといって、アメリカが参戦したとは到底考えられない。
 それにしても日露戦争前には、日本の軍事学徒のバイブルになっていたクラウゼヴィッツの精神が、昭和になってなぜ顧みられなくなったのか、どんな力学がはたらいたのか。
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