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民族英雄リサールに「会った」話

Posted by Ikkey52 on 09.2015 フィリピン   0 comments   0 trackback
 過去の取材の記憶を辿るとき、それが現実の体験だったのか、それとも夢だったのか、いまとなっては判然としないものがある。たとえば、フィリピンの新興宗教取材のケースがそうだ。その若い小柄な男を、自分はこの目で確かに見た。そこに居合わせた人々は、彼こそスペイン植民地時代に生きた民族の英雄、ホセ・ルサール(1861-96)の生まれ変わりと信じて熱狂していた。もし実体験であったなら、自分は呆然と立ち尽くしていたはずだ。

 マニラ首都圏、どの市であったか、それからしてはっきりしない。街角の古びたレストランのような建物のなかは、多くの人で埋まり立錐の余地もなかった。自分たちが到着したとき、太陽はすでに傾いていた。室内に窓らしいものはなく、ろうそくが点されていたが、それでも暗い。その暗がりの中で繰り広げられていたのはミサのようだった。それにしてもお目当ての人物はどこにいるのか。暗さのなかで人垣に潜りこんだがわからない。

 当時、マニラ首都圏では宗教に絡む異変が相次いだ。ナゾの宗教団体が何の目的なのか、高速道路内に侵入して座り込んだときのこと。取材車のドライバーは待ってましたとばかり、あらかじめ用意していた赤色灯を車のルーフに取りつけ、サイレンを鳴らして高速道路を逆走、現場を目指した。しかし、猛スピードで対抗してくる車には赤色灯もサイレンもほとんで効き目がないと、用意周到なドライバー氏もようやく気づく。ついには、窓を全開にして、汗拭きのタオルを振り回し「危険信号」を送る始末。同乗していて生きた心地がしなかった。いまだにその時の光景が悪夢となって甦ることがある。

 話が脇に逸れた。乱立するマニラ首都圏のラジオ局は、面白そうな街ダネならウラも取らずに何でも飛びつく。宗教絡みの異変も細かくマークしていたに違いなく、「ホセ・リサールが現れた!」との一報もラジオからだった。怪しげな与太話を真に受けたわけではないが、正体は見てみたい。そんな気分の赴くままモノ好きにも取材先まで来てしまった以上、「リサール」が現れるまで帰れない。とにかく待ってみることにした。  
 
 ミサのざわめきがひときわ高まると、吹き抜けの二階の手すりの向こうに、かつてのヨーロッパの船乗りを思わせる衣装の人物が現れた。マントを羽織っていたと思う。静かな声で説教を始めると人々は清聴し、やがて喝采となった。二階から降りてきて人垣に飲み込まれた若い小柄な男を間近に見た。しぐさは自然で、芝居がかってもいなかったが、想像していたカリスマ性は感じられなかった。

 「7割のカトリックと3割のイスラム」、そんなイメージのあるフィリピンの宗教地図だが、カトリックと土着的な精霊崇拝との混交からなる小さな宗教集団が多数存在する。そのうち「リサリスタ」と呼ばれるグループは、 「19 世紀末にスペイン当局によって銃殺された独立運動の闘士ホセ・リサール とキリストとを同一視したり、 あるいはキリストはリサールを通じてフィリピン人の前に出現したと信じる」(文化庁「海外の宗教事情に関する調査報告書」)。

 西欧宗主国の圧政にあえいでいた19世紀植民地下のアジアには、日本に明治の元勲たちがいたように、西欧の知識を咀嚼し早々と民族意識に目覚めた独立運動の闘士がいたが、医師、著作家、画家、そして学者でもあったホセ・リサールはそんな典型でもあった。日本にも短期間だが滞在し、自由民権運動の闘士との交流が伝えられている。
 フィリピンに暮らすうち、自分はホセ・リサールに自然に興味と敬意を抱くようになっていた。くだんの集団は、リサリスタのなかでも、ホセ・リサールの生まれ変わりを名乗る人物に率いられた新興少数カルトだったと考えれば合点が行く。ミサの会場で「ホセ・リサール」氏へのインタビューを申し込んだはずだが、その内容について覚えていないところをみると、拒否されたのだろう。かといって邪険にされたような記憶もない。ともあれ生きた「ホセ・リサール」に少しの間でも会えたとすれば、やはり僥倖と言うべきだろう。
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