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映画「On the job」が描くフィリピンの変わらぬ宿痾

Posted by Ikkey52 on 23.2014 フィリピン   0 comments   0 trackback
 刑務所というところは、その国の経済状態と人権意識、宗教観や政治的安定度などが濃密に反映される場所だと思う。自分が取材で踏み込んだのは、日本とフィリピンのみだが、BC級戦犯の処刑で知られたマニラ郊外、モンテンルパ刑務所には、家族同伴囚が構内の一隅に小屋を建てて何世帯も住んでいたし、真正拳銃を使った観光客相手の射撃場さえ営んでいた。ええっ、と思うかもしれないが事実だ。それほどの苦労もなく収監中の死刑囚にインタビューできたことを含め、カルチャーギャップに目が回った。日本の行刑施設の、取材が許されるまでの手続きの煩雑さや、針一本落ちてもわかる強圧的な沈黙が印象深い軍隊式管理を知っていた身には、なおのことだ。

 神出鬼没のヒットマン2人が実は、黒幕命じられるまま、腐った警察組織の手助けをうけて、つかの間、刑務所から娑婆に放たれる囚人だった、という設定のフィリピン映画『On the job』。ストーリーは実話に基づいて(based on)いないが、触発された(inspred)という。さもありなん。あの国ではありそうな話だ。ヒットマンは初老の男タタンと若者ダニエルのコンビ。釈放が近いタタンは、自分を慕うダニエルを後継とすることで、平穏な暮らしを夢見るが、「On the job〈実戦で)」で教えようとしたダニエルは大事な仕事をしくじり、自分が後始末に乗り出さざるを得ない。
 一方、執拗に謎のヒットマンを追う地元警察の刑事アコスタは、汚職上司を告発して、報復に降格させられたたたき上げの硬骨漢。ヒットマンの背後に政界の大物に繋がっているのではないかと疑うが、彼の捜査に国家警察捜査局(NBI)の若手エリート捜査官コロネルが唐突に割り込んできて対立する。コロネルは、政界の大物パチェコ将軍とつながる上院議員の娘婿だった。アコスタとコロネルが和解へと向かう過程は、なにやら韓流ドラマを思わせる。ちなみにタタンとダニエル、アコスタとコロネルは、それぞれ父と子の暗喩になっている。

 冒頭のカーニバル風景は、マニラ首都圏サンファンの水かけ祭りか。映画スターから大統領になったエストラーダは、政界への階段としてサンファン市長を務めている。こてこての下町を管轄するトンド警察の名前も出てきた。出稼ぎ先の中東から舞い戻ったふりをしてダニエルが恋人と再会する町は中華街から遠くない臭いがする。観光馬車カレッサが通り抜けて行った。英語が操れない刑務所の囚人たちがタガログ語オンリーだったのに対し、コントラストを見せるのは上流階級のタメ口。英語とタガログ語がチャンポンななかにスペイン語の単語も混じる。リアルで興趣を盛り上げた。

 フィリピンという国土はわずか数十の家族が支配するといわれてきた。日本でいえば荘園時代であり、諸悪の根源はそにあるのだが、荘園領主の息のかかった者以外は大統領になれないという虚しい現実がある。財閥とつるむ政治、行政。あからさまな不正選挙。警察官の腐敗と堕落。そして犯罪組織との癒着・・・。現代フィリピンの一側面を描く2013年公開の映画に、それらすべての要素がリアリティを担保する道具立てとして使われて、しかも効果を上げるという皮肉な状況は、真面目な国民にはある意味耐え難いだろう。それでも、このところのフィリピン映画の質的向上には感嘆を禁じ得ない。ちなみに、映画の邦題は「牢獄処刑人」。うーん、つけた阿呆の顔(ツラ)が見たい。
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