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カンボジア悲劇の真相

Posted by Ikkey52 on 08.2011 書評・アジア情勢   0 comments   0 trackback
 念願のアンコール・ワット観光を楽しんできた知人に土産話を聞かされたが、どうにも違和感が残って、馬渕直城の「わたしが見たポルポト」を再読した。06年の発売直後の購入だが、今回は読後の印象がずいぶん違った。たぶん、3・11を体験したせいがある。ウソは巨大なほどバレにくいことを知った私たちは、かつてなく疑い深くなった。

 著者は、東南アジアをカバーエリアとする日本人ジャーナリストの大ベテランで、特にカンボジア情勢に詳しく、多くの後輩たちから尊敬を集める存在。私もかつてUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)の平和維持活動時、現地取材に入ったおりにお世話になった。

 馬渕さんには絶対的少数派としての顔がある。「ポルポトによる自国民の大量虐殺は虚報である」と一貫して主張し、少しもぶれないのだ。なにしろ、ポルポト派=クメール・ルージュが、アメリカに追随したロンノル政権を倒し、首都プノンペンに進駐した日、馬渕さんはすでに戦場専門のカメラマンで、新婚の現地人妻を持つプノンペン市民でもあった。世界中のジャーナリストが夢見て果たせなかったポルポト本人への取材を生涯2度行い、荼毘に付されるところにも立ち会った。ベトナムの傀儡だったヘン・サムリン政権時代には、反攻するクメール・ルージュの戦闘部隊に2か月半同行し、解放区入りも果たした。カンボジア・ウォッチャーとして、これはもう筋金が入っている。
 忘れられない光景がある。1992年の秋、カンボジアの首都プノンペンでのこと。私たちジャーナリストと立ち話を終えた明石康UNTAC特別代表(国連事務局次長)が、アロハシャツに半ズボンといういでたちの馬渕さんを見つけて、ポルポト派は今、何を考えているのか教えてほしい、と率直に頼んでいた。カンボジア4派のなかで、ポルポト派は唯一UNTACを強くけん制しており、その存在は不気味だった。「ポルポトのメッセンジャー」と、明らかにとげのある呼ばれ方をしても、馬渕さんはいっこうに意に介さなかった。

 大虐殺があったか、なかったか。カンボジアでの取材で、私が知り合った人たちのほとんどが、長い内戦中で肉親を失っていた。身寄りは誰もいない人もざらだった。そこにはプロパガンダも強いられた演技もなかった。言葉を失った。ただし、自分の肉親が強制移住先でポルポト派の少年兵に殺された人たちばかりだった、と言い切る自信はない。
 いま、ネット上での馬渕本の書評は概ね定まっている。「一方的な視点」、「客観的な裏付けがない」、「カンボジア人への思い入れが強すぎる」等々。しかし、馬渕さんの立場は、虐殺否定論というほどの極論ではない。貧農中心の社会主義建設の誤りは、ポルポト自身も、ポルポト派幹部も、馬渕さんのインタビューに対して認めているからだ。
 カンボジアの戦後史は、馬渕さんが再三指摘するように、隣接するベトナムとの確執ぬきには語れない。現に今のカンボジア政権は、ベトナムに亡命体験を持ち、ベトナムの後押しを受けるフン・センに握られている。ベトナム戦争で、ベトナムがカンボジアを便利な楯として使ったために、カンボジアがアメリカ軍から破滅的爆撃を受けた過去を知る人は多くない。また、かつてはカンボジアに露骨な傀儡政権を立てて、隣国を制圧したベトナムの拡張主義を、大方の日本人は忘れている。
 インドシナ情勢のなかで、ベトナムは圧倒的な軍事強国なのに、日本人は1960年代の反戦運動高揚以来、ベトナムを判官びいきで見てきた。そんな子供っぽい思考を、馬淵さんは本の中の挑戦的言辞で、あえてあてこすっているような気がする。
 純粋に内戦の犠牲といっていいカンボジア国民の死者はどれくらいいたのか、それとは別にポルポト派による狂気の貧農革命で国民浄化の対象となった死者はどれくらいのオーダーにのぼるのか、そして、反ポルポトで利害が一致したアメリカとベトナムが、カンボジアのイメージを貶めるために垂れ流したウソの数字に、私たちは本当に絡めとられてきたのかどうか。馬淵さんの体験的カンボジア論がピュアであるだけに、答は簡単に出てこない。

馬淵氏は昨年11月に日本で亡くなりました。ご冥福をお祈りします。
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