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ペテン師の手玉に取られた日本~七尾和晃『世紀の贋作画商』

Posted by Ikkey52 on 18.2014 評論   0 comments   0 trackback
 高価な美術品や名画を売買の対象にする仕事…美術商。その言葉の響きから、庶民の暮らしとは無縁の、ある種のセレブ感とともにミステリアスな匂いが立ち上る。
 さて、例えばある美術商がルノアールの名画を大枚はたいて購入したところ、贋作であることがわかったとしよう。美術商は自分の審美眼のなさを呪うとともに、大損で店の経営が窮地に陥ることに気づき、悲嘆に暮れて自殺を考えるだろうか。いや、そんなことはない。美術商は何くわぬ顔で贋作を真作として売りぬける方策を考えるはずだ。そう教えてくれたのは、七尾和晃のノンフィクション『世紀の贋作画商』(草思社文庫)だ。

 9・11の捜査で在米アラブ人をしらみつぶしに当たっていたFBIの網に妙な男がひっかかってきた。バブル前夜の銀座を根城にして、日本の金持ち層、企業、美術館などに名画の贋作を売って売って売りまくってきたユダヤ系イラン人画商イライ・サカイだった。一時に比べてその数は減ったようだが、銀座には今も美術商、画商の店が軒を連ねる。稀代のペテン師サカイの被害者は銀座のあちこちにいるはずだが、だれも被害を認めようとしない。トランプに例えれば、ババ抜きのババを掴んでもゲームが終わるまで持ち続けるようなドジは踏まない。つまり、銀座でサカイの被害者はそれぞれ加害者になることで生き延びてきたのだ。

 サカイと日本の関わりは、1982年に起きた「三越・古代ペルシャ秘宝展贋作事件」にまでさかのぼる。結果として、三越のワンマン社長、岡田茂の失脚を決定づけたこの事件は、千葉在住の彫金師らを使ってサカイが仕組んだ安手の詐欺だった。秘宝展開催中にスクープ記事をぶつけてきた朝日新聞で一報を知った松本清張は、その足で会場に駆けつける。そして自分の目で確認してみた。展示物の一部は、以前にサカイ自ら清張宅を訪れ、購入を持ちかけた品に間違いなかった。ペルシャ古代史にとりわけ造形が深い清張はとりあわなかったが…。

 七尾の取材の信用性を担保しているのは、刑務所収監直前のサカイ本人に行ったインタビューのほか、サカイに依頼されて贋作を精力的につくっていたベルギー・ブリュッセル在住の画家レアル・ルサールと過ごした数日間の会話だ。ルサールが生涯でサカイに渡した贋作は実に約5千枚。イランの貧しい絵画運搬人の息子サカイは、500億円を貯めこんで日本人妻とともにニューヨークの高級住宅街に大豪邸を構えるまでになっていた。七尾はサカイを追うニューヨーク在勤のFBIベテラン捜査官とサシでやり取りする関係をつくり、盛んに取材しているのだが、そのことを自慢めかしていているばかりで、前二者に比べると印象が薄いのはなぜか。

 それにしても、銀座の画商たちばかりでなく、日本の美術評論家、公立美術館員、大学教授まで、よくもまあ騙され続けてきたものだ。我々庶民も実はこうした問題と無縁ではない。著名ないくつもの公立美術館にサカイの贋作が後生大事にいまも納まっているからだ。税金のひどい無駄使いにハラワタが煮えくり返るではないか。
 取材のまとめとして七尾は、「事件の全貌をわかりにくくしているのは、日本人特有の『恥』の感覚だろう」というのだが、美術鑑定の権威が、真贋を見分けられなかった責任を感じて恥じ入り、懺悔したという話は寡聞にして聞いたことがない。この業界に生息する人たちの「恥」の感覚の希薄さこそ問題ではないのか。
 深い取材に基づくルポだが、文章としては、事実関係から突然離れて、ひとり物思いに沈むようなところが随所に見られた。あえて時系列を崩した構成も成功しているとは言い難く、何度も興がそがれた、と告白しておく。
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