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東電OL殺人裁判のでたらめ

Posted by Ikkey52 on 22.2011 冤罪   0 comments   0 trackback
 何十年も新聞中毒として過ごしてきた者にとって、朝刊一面の大スクープは、目覚まし効果抜群だ。福島第一原発事故に絡むマスメディアの大本営発表的報道に、日々うんざりしているうちに、そんな爽快さをすっかり忘れるところだった。7月21日の読売新聞朝刊には、「東電OL殺害 再審可能性」「遺留物から別人DNA」との見出しが躍った。こっちの心はもっと躍った。やはり、そうだったのか。夕刊以降で新聞、テレビは一斉に後追い。おりしも3・11以来、東電という固有名詞が日々のニュースの主役になっているさなかであり、その意味でも実に綺麗な抜きだった。

 東京電力の管理職である当時39歳の渡邊泰子が、渋谷区のアパートで遺体で見つかり、隣のビルに住んでいたネパール人の飲食店員が強盗殺人容疑で逮捕された。いまから14年前の事件だ。被害者が「東電エリート幹部社員」という昼の顔と、円山町界隈の「立ちん坊娼婦」という夜の顔の二つを使い分けていたため、マスコミの取材の方向性は警察捜査の本線もさることながら、単純な興味本位も手伝って被害者のプライバシーに集中した。のちに、そうしたメディアの取材の在り方が批判された。メディアの自戒に便乗する形で、公的機関を中心に個人情報秘匿の流れが強まり、実名報道主義の危機が叫ばれるなど、波紋も広げた。

 読売のスクープは、「東京高検が被害者の体内に残された精液をDNA鑑定したところ、ゴビンダ受刑者のものと一致しなかった」というもの。無期懲役の判決が確定していたゴビンダ受刑者が獄中から再審を請求していた。そもそも、ゴビンダ受刑者は、一貫して無実を訴え、一審では立証が不十分だとして無罪判決が出されている。高裁判断は逆転有罪となったが、決定的物証はなく、いわゆる状況証拠の積み重ねによる脆弱な論理構成で事実認定が行われていた。
 刑事訴訟法では、無罪判決(ゴビンダ受刑者の場合は一審)を受ければ、検察の勾留状は効力を失うと定められている。ただ、別件容疑の難民認定法違反(不法残留)で猶予刑が確定済みであったので、身柄はいったん入管施設に収容された。つまり国外退去の行政手続きに入ったことになる。それを追うように、検察側は本件で控訴、あわせて裁判所に対し職権による身柄の勾留を求めた。東京地裁と東京高裁特別五部はいずれも検察の請求を認めなかったが、結局、都合3度目の請求先である東京高裁刑事四部が認めたため、行政手続きの途上にあったゴビンダ受刑者の身柄は、入管施設から拘置所に移される形で刑事手続きのもとに戻された。難民認定法違反事件が挟まったとはいえ、無罪判決を受けた者の再勾留は、重大な人権侵害だと、批判の声が上がった。日本弁護士連合会も再審請求支援事件に指定している所以だ。ノンフィクション作家の佐野眞一も、一審無罪判決の言い渡しを受けたのに、異例の再勾留によって国外退去の行政手続きが機能しなかった点を強く批判している。

 佐野はベストセラーになった「東電OL殺人事件」を上梓するにあたって、東電本社にもしつこく取材をかけた。その過程で、被害者の所属していた部署の社員はみな、彼女の夜の顔を知っており、にもかかわらず、誰一人彼女に意見するわけでもなく、ただ見下して嘲笑していた事実を掴んだ。佐野は「これは明らかにある種のハラスメントであり、東電という会社にはもともとそういった陰湿な体質があった」と、新作の「津波と原発」を書き上げたあとになって、あらためて振り返っている。
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