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表現の客観性はどう担保すべきか…佐村河内騒動に触発されて

Posted by Ikkey52 on 12.2014 冤罪・ジャーナリズム   0 comments   0 trackback
 誇れるものは体力のみ、という20代のころ、ある冤罪事件のドキュメンタリーを制作する機会に恵まれた。初めての大役だ。他局もそれぞれ力の入った番組をぶつけてくるはずだ。薄い内容では話にならない。おおいに力んだ。

 事件はまだ戦後の混乱が残る時代に起きた。ある町で営林署職員が公金を持ったまま失踪、翌年、隣接する町でやはり営林署員が公金と共に消えた。当初、別個の横領事件と見られたが、第二事件の「容疑者」が白骨死体で見つかったことで、警察の見立ては、計画的な連続強盗殺人事件へと変わった。犯人一味はまもなく逮捕されたが、主犯格のAが、第一事件の殺害実行犯として、顔見知りで同じ町に住むBさんの名を挙げた。身に覚えのないBさんは逮捕され、必死に否認したが、特高警察出身の刑事から激しい拷問を加えられて「自供」。公判で、警察での自供は苦し紛れのウソだった、と一転否認に転じたが、無期懲役の有罪が確定した。Bさんは仮釈放後に2度目の再審請求を起こしていた。

 故郷の古びた公営住宅の一角を借り、廃品回収で生計を立てていたBさん宅に何度通っただろう。公判の全記録や当時の新聞報道にすべてあたり、事件現場にも立ち、当時の捜査の正当性を疑わない元拷問刑事、Bさんの刑務所での服役仲間などにも取材した。その結果、絶対シロと確信していた。ただその確信を、客観的映像に定着できなければ、思い込みによる偏向番組ができるだけだ。不安にさいなまれた。主犯の死刑が執行されている以上、真相を知るのはBさんただ一人。そのBさんとの信頼関係だけが自分の拠り所だったのかもしれない。

 この再審請求の動きに長い尺を費やし、まとめて伝えたのは東京Nテレビの報道情報番組枠が最初だった。ディレクターは地元局のY。しのぎを削って取材してきたライバルであり、Bさんの無実を信じるという意味では同志でもあった。Yの番組構成は緻密で、特に番組のラストに衝撃を受けた。ある夜、Yはカメラマンを連れて、アポを取らずにBさん宅のドアをノックする。戸口を開けて旧知のYがいることに驚くBさん。間髪入れずYが聴く。「Bさん、ほんとうにやってないんですか?」。Bさんはこの愚直な問いにさらに驚いたはずだが、戸惑ったのはごくわずかの間で、すぐに「うん。やってないよ」と返答し、番組は終わる。いまだに忘れられないシーンだ。

 不躾な質問ひとつが、長年積み上げた取材対象との信頼関係を壊すことがあるのを承知で、Yは挑んだ。いまでこそ、このラストシーンは、映像表現の客観性を補強するために、あえて挿入された重要パートとわかるが、当時の自分は、恥ずかしい話、客観性の担保のためにはここまでやらねばならないのか、と受止めていた。

 古い記憶をわざわざ引っ張り出したのは、佐村河内のペテンの増幅に、大きな責任があるマスメディア側からぼちぼち言い訳が出はじめ、それがいかにも情けないからだ。AERAは、本人へのロングインタビューと識者の取材で疑念を抱いて、記事にしなかった、と「後出しジャンケン」だ。疑念を知りながら沈黙したとすればペテン師の立派な共犯だ。障害者を名乗る相手だから思考停止したわけか。新聞本紙と系列週刊誌に提灯原稿を執筆したという朝日の記者は、「偽りの物語、感動生む装置に 佐村河内氏問題への自戒」と題して検証記事を掲げたが、佐村河内の計算高さや音楽業界の商業主義をあげつらうばかりで、彼女の自省の中身は何なのか、さっぱり見えなかった。

 日々ニュースに追われるジャーナリストたちは、取材する相手の身元をあらかじめ洗うようなことはしない。だから感動小噺「一杯のかけそば」の作者に犯罪歴があったなどということはたまに起きる。しかし、佐村河内にある種の畏敬の念をもって向き合ったとしても、彼が全聾の障害者であるかどうか、オーケストラ譜を本人自身が書いているのかどうかの2点は、例え不躾であっても、取材者として最低限確認すべきだったろう。ゴーストライター問題については、また別の論点もあろうが、この2点の確認がなされていれば、ペテン師の虚言がここまで膨らむことはなかったと思う。
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