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映画『かぞくのくに』に見る北朝鮮後期帰国事業の残酷

Posted by Ikkey52 on 04.2013 映画・北朝鮮   0 comments   0 trackback
 記憶のなかにある北朝鮮の首都ピョンヤンの夜は、チュチェ思想塔のてっぺんが赤く輝いているほかは、漆黒の闇が広がるばかりだ。中心部でも街灯はほとんど点いていなかった。現地では、全日程を通して3人の案内員に見張られていた。彼らの隙を突いたつもりで、入国当日の深夜に一人ホテルを抜け出した。ピョンヤン駅はホームさえ真っ暗だったが、不思議な時間帯の無言の混雑をしかと網膜に焼き付けた。尾行には気をつけて戻ったが、ばれていたらしい。翌日から夕食後、案内員たちによって、半ば強引な形でホテル地下のバーに引っ張りこまれるようになった。体のいい雪隠詰めだ。案内員とは名乗っても、彼らは北朝鮮国内防諜網の一端を担っているプロ。心を許すつもりはなかったが、酒の勢いで双方言いたいことをいい、遠慮ない質問を浴びせあううち、うちとけていった。
 
 Rと名乗るリーダー格の案内員は東京・池袋出身。いわゆる帰国者だった。親はかなりの財産家らしく、総連への献金を怠らなかったせいだろう、彼自身は佐官身分に昇進しピョンヤン市内の高層アパートを割り当てられていると言った。それでもかなり痩せている。食糧の配給事情について突っ込んで聞くと、とたんに歯切れが悪くなった。日焼けで浅黒い顔は、佐官クラスといえども援農に駆り出されていることを物語っていた。池袋界隈の賑わいに話が及ぶと、遠くを見つめるまなざしになった。
 
 1959年暮れから始まった在日朝鮮人の「北」への帰国事業で、1984年までに約9万人が海を渡った。もっとも、映画「キューポラのある街」で描かれたような「地上の楽園」幻想が信じられたのは、ごく初期の話。帰国希望者は帰国事業開始からわずか数年で激減する。新潟から乗り込んだ船内の悪臭から、この先何が待ち構えているのか、悟った人もいたという。帰国事業の後期は、「人身御供」を求める本国に対して、総連幹部らが忠誠心を示すために泣く泣く自らの子弟を送り込むという、いわば「自己責任による拉致」に近いものになっていった。日本で高校生活を送ったらしい案内員R氏も年齢から考えると後期帰国事業に乗った口だろう。
 
 第86回キネマ旬報ベストテンで日本映画1位に輝いた映画「かぞくのくに」では、まさに子供を帰国事業に差し出した在日コリアン一家の四半世紀後の苦悩が、淡々と描かれる。祖国に忠実な総連支部幹部の父、自宅で喫茶店を営み家計を支える母、朝鮮語の教師に飽き足らなさを感じる同居の娘という東京・下町の家族。一家には、16歳のとき「祖国」に帰国させた息子がいるが、その息子が監視付ながら25年ぶりに一時帰国してくる。病気治療が名目の特別な計らいだった。精密検査の結果、息子に脳腫瘍が確認され、今は自覚症状が出なくても、放置すれば命に関わることがわかる。外科手術とその後の入念な加療が必要だと診断され、父は当初3ヶ月とされた一時帰国のリミットを本国との交渉で半年に伸ばしてもらおうと考える。ところが、滞在わずか2週間で本国から召還命令が出される。何の理由も告げられずに…。
 
 監督は在日コリアン女性のヤン・ヨンヒ。自身が3人の兄を帰国事業に取られており、映画のストーリーは彼女の実体験と重なる。最も遅く帰国したヨンヒ監督の長兄はすでに死亡しているが、1972年に金日成60回目の誕生日の「プレゼント」として帰国を促された朝鮮大学校生200人のひとりだったという。病気治療で一時帰国が許されたのは三兄だそうだ。在日の「愛国的商工人」が苦悩の末に筆を執った『凍土の共和国』(1984年・亜紀書房)など三部作に出会って以来、北朝鮮には特別の関心を向けてきたが、北在住の日本人妻、いわゆる「おりこうさん妻」や、寺越事件の寺越武志のような対日カード以外に、一時帰国が許されたケースがあったとは、不勉強で全く知らなかった。
 
 北朝鮮という国は、悪人の集まりでは断じてない。しかし、自分の良心にしたがってものを言う自由は許されていない。映画の中で、「思考停止は楽だぞ」と力なく妹に笑いかける一時帰国者の兄の言葉に、かの国での人民の苦しみがリアルに凝縮されていた。
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