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大川周明の私塾と月光仮面

Posted by Ikkey52 on 19.2013 現代史   0 comments   0 trackback
 この夏の読書体験は、期せずして井上日召の血盟団事件から五・一五事件、大川周明の私塾開設とその教え子たちの戦中戦後といったあたりを行きつ戻りつしていた。日々の暑さを忘れさせてくれるような爽快感を期待したわけではないが、8月のマスメディアに溢れる、紋切型の体験的反戦論にはほとほと閉口していただけに、逃げ道としては正解だったかもしれない。

 血盟団が掲げた「一人一殺」というスローガンのインパクトがあまりに強いことや、宗教人-日蓮宗-狂信家という連想もあって、井上日召という人物を何気なく悪魔的なカリスマのイメージで見てきたが、少なくともその認識は改められた。北一輝のような怪しい魔王性や野望を秘めた生臭さは見いだせない。そこそこの教養人である。満洲放浪の経験から腹も据わっていた。自分の分をわきまえたところから出発しており、暗殺という理解の得にくい手段に傾倒したのは、「破壊」までが自分たちの仕事の範疇であり、「創造」は自分たちよりもっと優れた人材が担えばよい、という諦観めいた割り切りからだった。

 血盟団事件から、三月事件、十月事件、そして首相暗殺に至る五・一五事件、さらに二・二六事件まで、主役の違う昭和前期のクーデター未遂が一つながりのものだった、というのは立花隆の見立てだが、上記すべての局面で陰に陽に顔を出している大川周明の存在などは、さしずめ、その恰好の傍証だろう。だが、意表をつくように、その大川が慈愛に満ちた教育者としての顔を見せるのが、東亜経済調査局附属研究所。名称からは想像しにくいが、アジア主義を実践する人材養成の場として大川が私財をつぎ込んで作った全寮制の私塾である。2年終了までに、アジア各国の文化や言葉、習慣を中心に、英語、仏語など宗主国の言語などが叩き込まれた。戦局悪化で閉鎖されるまで巣立ったのは約100人。それぞれタイ、仏領インドシナ、英領ビルマ、蘭領インドネシアなどに散った。教育の第一理念は、日本人の「正直と親切」をアジアの人々の間で発揮すること。塾生は在外公館や現地日系商社で大川の教えを忠実に実践しようとするが、アジアを泳ぐすべを身に着けた二十歳前後の若者を、軍がほっておくわけがなく、陸軍中野学校卒業生らと組まされるなどして、否応なく戦争の歯車にされていく。そのため、終戦後はBC級戦犯容疑をかけられ、海外の収容所を転々とさせられた者もいた。 
 
 大川は戦後、A級戦犯容疑で巣鴨プリズンに収監されるが、東京裁判の法廷で東条英機の頭をスリッパで叩いた奇行は、大川が脳性梅毒で狂った、と国民に信じさせるに十分だった。様々な手段で外地から帰国していた塾生たちは、免訴されて隠棲した大川を変わらずに恩師と仰ぎ交流を回復する。数奇な戦時中の経験を語り継ぐ会報から見えてくるのは、植民地アジアで独立を求める人々と「アジアはひとつ」を信じる大川塾生たちがときには命がけで共鳴し合い、理想を語り合った痕跡だ。大川塾生たちの足跡は決して大きくないが、戦後評価が定まったかに見える「大東亜共栄圏=幻想論」にとって、ひとつの異議申し立てになっていないか。超のつく労作、『大川周明 アジア独立の夢~志を継いだ青年たちの物語』(平凡新書)で著者の玉居子精宏は「彼らの姿に、アジア主義の強靭な根幹を見る思いをもった」と記す。

 ずいぶん話題が飛んで申し訳ないが、「月光仮面」、「快傑ハリマオ」で、日本のテレビ創成期の子供向け冒険活劇は始まった。あえて言うと、両番組のアジアへの傾倒ぶりは尋常ではなかった。国名はそれぞれ架空だが、ビルマ式男女兼用スカート「ロンジー」を穿いたり、イスラム圏特有の帽子をかぶった色の浅黒いアジア人風の人物が頻繁に登場し、敵になったり味方になったりする。日本の独立回復後、10年経たない時点での、作り手たちの関心は東南アジアに傾いていたのだ。宣弘社という、今は無き広告代理店が製作費を安く上げるため、映画関係者を中心に様々な外部スタッフを駆り集め、自社制作したコンテンツだというが、自分は関係者のなかに大川塾生のマインドを受け継ぐ者がいたに違いない、と勝手に推測している。
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