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匿名性と「正義」の罠 ~安田浩一『ネット私刑』

Posted by Ikkey52 on 24.2015 書評・事件   0 comments   0 trackback
 相手を選ばない辛口の物言いと、一国の大統領夫人だった稀有な経歴…。デヴィ夫人のブログをのぞくと、バラエティ番組の売れっ子としての地位は、いまもまったく安泰に見える。そのデヴィ夫人が、兵庫県に住む見知らぬ女性から名誉棄損の損害賠償請求訴訟を起こされ、解決金の支払いと全面謝罪に追い込まれていた(大阪高裁の控訴審で和解・2014年7月)。

 滋賀県大津市で11年10月に起きた中2男子生徒のいじめ自殺を巡り、ネット上では加害側生徒やその関係者のあぶり出しが過熱したが、デヴィ夫人は人違いの情報(いわゆる誤爆)に反応し、事件とは縁もゆかりもない女性を加害少年の母と決めつけて写真や勤務先を自分のブログに掲載した。ブログにはご丁寧にも「加害者さがし」を謳ったものだから、それまで一日数万の検索数が数百万になったという。誤爆情報の拡散に弾みをつけた責任は軽くない。

 ただでさえ、不寛容な気分が蔓延している時代。個人情報保護法が情報を持つ側に恣意的に利用され、知る権利を行使しにくくなっている時代。その欲求不満を解消するかのように、メディア特性である匿名性を最大限に生かして、ネットが幅を利かせるようになった。刑法も少年法もネットの前では何の役にも立たない。ネット住民が刑事となり、検事となり、やすやすと取材者・報道者になり、往々にして判事にもなる。もっと怖いのは、メディア・リテラシーを持たないネット住民が刑場の執行官を任ずることだ。

 大宅賞ライター、安田浩一の『ネット私刑』によると、お笑い芸人、スマイリーキクチは、ネット上で「殺人犯」とされ、10年以上苦しんできた。1989年に都内で起きた女子高生コンクリート詰めリンチ殺人事件の犯人のひとりと名指しされたのだ。真犯人らはいずれも犯行当時未成年で、逮捕後も少年法に守られていたが、そのことと残忍な犯行の容態との落差は大きく、実名が報じられないことに人々の不満が高まった事件だった。
 スマイリーキクチに対する最初の書き込みは面白半分だったと思われるが、「しかしネットにおける『噂話』は、書き込まれた瞬間から『事実』に進化する。そして燎原の火のごとく拡散する」(安田同書)。手の付けられない炎上に警察も無力だった。不快、不愉快では「被害」と認められない。「殺されたら捜査しますよ」と悪い冗談も言われた。孤立無援である。

 ところが、スマイリーはやっとまともな刑事と巡り合う。中傷が特に悪質なネット発言の主を19人探し出して、警察への出頭を命じ、一人を脅迫容疑で逮捕する。男も女も未成年も中年もいた。すると風向きが変わった。面白いのは、中傷に手を染めていた19人のうち、単純な愉快犯はただ一人。他の全員がスマイリーキクチをリンチ殺人の犯人だと信じて疑わなかった。正義を行使しているつもりが中傷と脅迫を生んでいることに全く無自覚なのだ。しかも、摘発に対しては、反省を示すのではなく被害者意識ばかり。中傷されたスマイリーに謝罪しようとする者は一人もいなかったという。「ネットに洗脳された」、「さきに書き込まれた情報が悪い」と。

 安田はいう。「たかがネットの書き込み、では済まされない。ネットの悪意は生活を脅かし、人間を絶望に追い込み、そしてときには命さえ奪う」。「現実社会で口にできないことは、ネットでも書き込むべきではない」。いやな世相になっている。
  

プロフィール

Ikkey52

Author:Ikkey52
ジャーナリスト 札幌生まれ
父方は、奈良十津川郷系+仙台伊達藩亘理系。母方は東三河豊橋系+肥前鍋島藩系+加賀藩系

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