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ドラマ「足尾から来た女」に暴かれた、人徳者「石川三四郎」の若気の至り…

Posted by Ikkey52 on 30.2014 テレビ   0 comments   0 trackback
 尾野真千子の熱演を除けば、期待外れに終わったNHK土曜ドラマ「足尾から来た女 前篇・後篇」。明治の民権派・社会主義・女権拡張の各運動家に加え、与謝野晶子、石川啄木といった明星派歌人まで、当時の著名人総出演の感があったが、たった2回ではまとまりようがない。題材の採り方が新鮮だっただけに、大いに惜しまれる。

 19世紀後半に発生した栃木県足尾銅山の鉱毒公害事件で、強制的に廃村にされた谷中村出身の娘「新田サチ」が主人公。サチは、反公害リーダーの民権主義者、田中正造翁の激励と紹介を受けて、東京の女性社会運動家、福田英子宅に女中として住み込み、様々な経験をするなかで、郷里への思い、反公害への思いを強靭なものにして行くという物語だ。「新田サチ」に実在のモデルがいたかどうか、不勉強でわからないが、あとは実在の人物たちでドラマはすすむ。福田英子は、清の朝鮮支配に反対する民権グループに参画し、爆弾の運び屋を務めたとして懲役刑を食ったことのある「青鞜の女」だが、11歳年下の石川三四郎と愛人関係だったことも作り話ではない。それにしても、よくも石川三四郎の存在を歴史の彼方から呼び戻してくれたものだ。たぐいまれな人徳者といわれた超大物の存在をみんな忘れかけていた。

 『虚無の霊光』という神秘主義的タイトルの主著を持つ無政府主義者、石川三四郎は、幸徳、大杉らの同時代人と交錯しながら、大逆事件にも、震災後の社会主義者虐殺にも巻き込まれることなく、昭和31年まで生き抜いた異色の思想家だ。どういう思想遍歴の人物か、この人ほど端的に表現するのが難しいタイプもいない。「万朝報」反戦派から週刊平民新聞社員への転身がスタートといえばスタートだが、獄中での古事記研究から天皇家とは何かと考え、キリスト教に振れ、老子をはじめとした東洋的アナキズムに振れた。大杉に先駆けてヨーロッパに渡るが、その途上、尾張徳川家19代当主の徳川義親や皇族の北白川宮の知遇を得た。21世紀の今、反グローバリズム運動の始祖として再評価されているフランスの大物アナキスト、エリゼ・ルクリュ家の庇護をうけつつ農業に目覚め、協同組合主義に振れ、東洋史研究に振れた。太平洋戦争中は、都下千歳村で農村的共学組織を志向し、雑誌を出しては当局から発禁を受ける「いたちごっこ」に耐えた。終戦直後には、「国家は打倒された」と喜び、高らかに「無政府主義宣言」を発するとともに、「地方集団の自由連合式結合とその愛の象徴としての天皇」という独特の社会モデルを理想像とする地平に到達した。この間、一度たりとも転向したことはなく、農業には終生こだわったが、農本主義といっしょにされるのがいやで、「土民生活」という用語を使った。石川のたどり着いた独創的イデオロギーの前には、左右いずれであれ、たいていの異端思想は色あせてみえる。

 キリスト教的社会主義を奉じていた若い日、田中正造翁に心酔し、何度も谷中村入りしているが、この肝心な足尾との深い関わりはドラマではあっさり切り捨てられていた。逆に、居候させてもらっている福田英子の目を盗み、石川が力づくでサチを手籠めにしようと仕掛ける場面が挿入されていた。それが妙にリアルなのは、実際に似たエピソードがあったからだ。福田英子宅に一時寄宿していた他家の十代の娘さんを石川は妊娠させている。娘さんは海外留学中の婚約者の帰朝を待つ身だった。また、福田、石川どちらのプロフィールにも記録されていないが、2人の間には一子がいたようだ。福田は晩年、縁の切れていた石川に「末子に名を継がせてほしい」と頼み、石川が快諾したという逸話が伝わっている。

 話が小さくなった。石川は、今から100年も前に、地球上から多様性豊かな人々の暮らしが失われていることに気づき、激しく警鐘を鳴らした。いま、それはグローバリズムの仕業であると明確にわかっている。2001年にイタリア・ジェノバで開かれたG8は、サミット粉砕を叫ぶ20万人の人々によって包囲されたが、彼らの共通の旗が反グローバリズムであることを、各国のマスメディアは踏み込んで論じなかった。おりしも昨年、ルクリュと石川の遺稿をもとに日本で『アナキズム地人論』が出版された。それもまた高まる反グローバリズム気運の反映だとすれば、石川たちも報われるかもしれない。
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Author:Ikkey52
ジャーナリスト 札幌生まれ
父方は、奈良十津川郷系+仙台伊達藩亘理系。母方は東三河豊橋系+肥前鍋島藩系+加賀藩系

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