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庶民像のリゴリズム  ~桜木紫乃が抉(えぐ)り出す人生

Posted by Ikkey52 on 24.2013 文芸批評   0 comments   0 trackback
 第149回直木賞を桜木紫乃に与えた選考委員たちの評価点は、安定した筆力と技術、オーソドックスであることの新しさ、などにおおむね集中していた。未知の作家であったので、さっそく何作か目を通してみて、この人の職人仕事の見事さに唸った。受賞作『ホテルローヤル』も売れに売れているという。

 桜木作品に登場するのは、ごくありふれた庶民、といっても、むしろ経済的に恵まれない層に属する人たち。例えば、短大卒業以来13年間、釧路の「スーパー・フレッシュ・マート しんとみ」の事務員として働いている独身の加賀屋美幸は、自分の未来について、「普通の一生を送ることが出来れば御の字」と思い描いてきたし(『シャッターチャンス』)、二十も齢の離れた貧乏寺の跡継ぎとの縁談をあっさり受け入れた設楽幹子は、親兄弟という身寄りのないまま独り身を通すことに不安を抱き、「畳一畳でも居場所ができたことに、感謝こそすれ不平不満は持たなかった」(『本日開店』)。
 
 女たちだけではない。男たちもまたつましく健気だ。両親を早くに失い叔父に育てられた寺町圭介は、奉公先の床屋で真面目につとめて認められ、親方の引退を機に店を居ぬきで譲られる幸運に恵まれたが、独り立ちしても住み込み当時の一部屋で寝起きし、閉店後は好きな音楽を聴きながらひたすら刃物を研ぐ暮らしに満足している(『海に帰る』)。
 『氷平線』に登場する遠野誠一郎だけは、東大出の財務官僚とあって、桜木作品の他の主人公とは異質だが、その遠野にしても、流氷が接岸するオホーツク沿岸の寒村の生家から逃れることのみを考えていたはずが、エリートの道を歩み出してみると、そんなことに充足できないと思い当り、学生の頃、肌を合わせた年上の娼婦を故郷から「妻」に迎えることで、自分を取り戻そうとする。

 なにかといえば、夢だ、絆だ、希望だといわれる世相。それが悪いとはいわないが、宿命をあるがままに受け入れ、道は外さないのに、小さな幸せなどという目標さえ、掲げきれない無数の人生があるのだ、と桜木作品はもう一度念を押す。しがらみから「高飛び」できない生がそこここにあることに今さらながら気づかされる。大都会の片隅で、正社員になれない不満に凝り固まりながら、コンビニ生活だけは立派に成り立たせている「不幸」。将来に対する漠然とした不安はわかるにしても、果たしてそんなものが不幸のうちにはいるか、と桜木紫乃の描く「不幸」が嗤っている。
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