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佐野眞一の物書き哲学と週刊朝日連載中止騒動

Posted by Ikkey52 on 21.2012 ジャーナリズム   0 comments   0 trackback
 日本のノンフィクション界随一の大看板、佐野眞一にとんだ災難が降りかかっている。週刊朝日取材班と組んで緊急連載を始めた橋下徹・大阪市長の評伝、「ハシシタ 奴の本性」が、第一回を限りに連載中止の憂き目にあった。筆者の佐野にとって、人権侵害を理由にした橋下の猛抗議は、たぶん予想の範囲。取材対象のファナティックな過去の言動から見て、朝日関連のメディアに向けた取材拒否という強硬手段の行使も、ひょっとしたら考えていたかもしれない。ただ、あろうことか版元の週刊朝日編集長自身が、あっけなく坊主懺悔してしまうとは、全く晴天の霹靂だっただろう。この腹の座らない編集長については、様々なwebメディアですでに多くの批判的言辞が費やされているので、ここでは触れない。
 どうもよくわからないのは、橋下の怒りの真意だ。橋下の出自を巡る報道は出版社系雑誌をはじめとする活字メディアによって、むしろもっとセンセーショナルな形でとっくになされている。中でも決定版といえる新潮45の11年11月号掲載の「最も危険な政治家・橋下徹研究」は、被差別部落出身の暴力団員だった橋下の実父の実像をかなり詳細に暴き、発売3日目に5千部が増刷されるほどの大ヒットとなった。橋下は橋下で、自分の出自を認めたうえで、それがどうした、文句があるか、といった調子のコメントをSNS上で公表しており、選挙という審判も受けている。「ハシシタ 奴の本性」第一回目は、全体の一部に過ぎないこともあり、新潮45が1年前に報じた内容と比べて、新味は乏しい、と私は受け止めた。解放同盟マターをタブーとする傾向の強い全国紙の子会社の雑誌だから噛みついたのか、筆鋒鋭い佐野の登場ということであえて先手を打ったのか。
 差別助長があるのかないのか、という本質論だが、執筆した佐野本人が「記事中で同和地区を特定したことなど、配慮を欠く部分があったことについては遺憾の意を表します」としている以上、勇み足だったのだろう。ただ、その遺憾の気持ちは、名前を特定した地区を自分の足で歩き、周辺の空気を身をもってたっぷり吸ってきた取材者だからこそ抱く自省のはずだ。機械的に、「ここまで書いたら書き過ぎ」などといえるものでは絶対にない。言論のタブーをつくることは、それはそれで差別の温床をつくることなのだから。
 佐野は、ネパール人青年の冤罪を晴らすきっかけとなった記念碑的作品、「東電OL殺人事件」で被害者を実名表記して、多方面から批判や圧力を受けたが、反発されるのは織り込み済みだったと次のように述べている。
 「そもそも物を書くということは、多かれ少なかれ、誰かを傷つける行為である。それを自覚し、引き受ける覚悟がなければ、物書きなどやめたほうがいい。匿名で書けば、書いた責任が免れられるという発想には、精神の弛緩しか感じない。それだけで物書き失格である」(「耳と目を鍛える技術」・ちくまプリマー新書)
 同書で佐野は、「ノンフィクションの基本設計は、タイトルが浮かんだ時にほぼ決まる」と書き、タイトルをひときわ重く見る考えも明らかにしている。とりわけ、「評伝ではタイトルの良し悪しが作品の評価に大きく影響する」とさえ言い切る。
 では、「ハシシタ 奴の本性」という今回のタイトルはどうなのか。佐野作品の長年の読者としていわせてもらえば、今度のタイトルほど佐野らしくないタイトルはない。低級で安っぽいと思う。孫正義を追った「あんぽん」とタイトル付けの類似性を指摘する声もあるが、通読すれば「あんぽん」というタイトルそのものに両義性があることがわかる。通読できない連載物という限定条件を踏まえたとしても、こんどのタイトルは分が悪い。一部の批判者がいうように、「ハシシタ」が橋の下をねぐらとした被差別民の暗喩だなどとは思わないが、橋下(はしもと)家のもとの読み方「はしした」をカナカナ書きして呼び捨てにし、しかもそれを「奴」で受けている。好悪の情がストレートに出すぎて子供っぽく、アジビラもどきだ。アジビラは佐野が最も戒めてきた手法だったはず。「旅する巨人」、「巨怪伝」、「てっぺん野郎」、「凡宰伝」、「阿片王―満洲の夜と霧」、「甘粕正彦―乱心の曠野」…。数々の名タイトルで真実を追究してきた佐野が、ほんとうに自分でつけたものだろうか。それとも週刊朝日側が主導したものなのか。そのあたりがどうもひっかかる。そもそも、最初から佐野と朝日の取り合わせはミスマッチだった気がしてならないのだ。

  

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Ikkey52

Author:Ikkey52
ジャーナリスト 札幌生まれ
父方は、奈良十津川郷系+仙台伊達藩亘理系。母方は東三河豊橋系+肥前鍋島藩系+加賀藩系

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