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閉塞状況への一矢 ~ドキュメンタリー『死刑弁護人』映画版~

Posted by Ikkey52 on 22.2012 映画   0 comments   0 trackback
 安田好弘といえば、強硬な死刑廃止論者で、権力から悪魔呼ばわりされながら、数々の死刑求刑事件や死刑再審請求を手掛ける異色の弁護士。人を射抜くような目つきと真っ白な蓬髪がトレードマークだ。日々修羅場を歩き続けてきた人間だけが持つ、この男の鋭利な殺気が、以前から妙に気になっていた。
 東海テレビのドキュメンタリストたちが、名古屋ローカルのドキュメンタリー枠で地道に作りつづけてきた司法シリーズの第8作は、過去に何度かトライした安田弁護士追跡の集大成となっている。テレビ放映時と同一タイトルの映画版『死刑弁護人』を劇場で見て来た。
 ファーストシーンの電車内からいきなり安田のアップだ。ノートパソコンを不器用に膝に乗せ、安田が一心不乱に見つめるのは、画面の文字か写真か。その集中力に、安田と視線さえ交わしていないカメラが、見えない風圧を受けているのがわかる。車内アナウンスが被るが、安田にはおそらく聞こえない。インパクトある入り方だ。
 前半のインタビューで、安田にこわもての表情のまま「マスコミは嫌いだ。真実を語っていない。」と言わせる。安田が確定判決を覆そうとしているのは、林真須美死刑囚の和歌山カレー事件のや麻原彰晃死刑囚のオウム真理教事件など、著名事件がずらり。ほとんど「人民の敵」状態となった光市母子殺人事件控訴審での「こじつけ弁護」ぶりなどは記憶に新しい。権力による人殺しでしかない死刑を回避しさえすればいいのだ。そのためには意図的な審理の引き伸ばしでも何でもやる。それはそれでわかりやすい。
 中盤、カメラは安田のプライベートである酒場に入ることを許され、そこで初めて安田には人一倍人間臭い笑顔があることを観客は知る。別の夜、仲間との酒席から出てくる安田をカメラは雨の店外で待つ。出てきた安田が自然なしぐさでカメラに傘をさしかけてくれる。感情移入のカードはあわてて切らない。ためにためて、切ってくるから効果が大きい。日本的なドキュメンタリーのドラマツルギーをよく理解した編集に仕上がっている。
 ヨーロッパ諸国では、ストーリー性豊かであることが、いいドキュメンタリーの条件になっているという。『死刑弁護人』は、ドキュメンタリーとしてインパクトにあふれているわけでも、特別にドラマティックなわけでもない。阿武野プロデューサーが手掛ける東海テレビの一連のドキュメンタリーは、『裁判官のお弁当』にしても、この『死刑弁護人』にしても、テンションが上がるパートは皆無で、全編これ坦々と流れる。作り手の存在は、細心の注意を払って取り除かれており、ナレーションも最小限。観客は、現場ノイズ、陳腐な効果音、無音の3つの音使いによって、かろうじて作り手に指揮棒が握られているのを感じるだけだ。観る人に考える契機を提出する、というドキュメンタリーの原点に意図して回帰しようとしているのがわかる。
 社会が複雑になり、情報がおしげもなく消費される時代、私たちには、物事の一面しか見えにくくなっていないか。ドキュメンタリーという表現形式の果たすべき役割はむしろ増えているはずなのに、テレビのドキュメンタリー枠はほとんど絶滅危惧種だ。映画版のリクープは簡単とは思えないが、閉塞状況への一矢として彼らの気概を大いに買いたい。
  

プロフィール

Ikkey52

Author:Ikkey52
ジャーナリスト 札幌生まれ
父方は、奈良十津川郷系+仙台伊達藩亘理系。母方は東三河豊橋系+肥前鍋島藩系+加賀藩系

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