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北方領土はどう掠奪されたか~長谷川毅『暗闘』を手掛かりに

Posted by Ikkey52 on 19.2011 現代史   0 comments   0 trackback
 太平洋戦争の戦後処理で、ソ連のスターリンに北海道北部(日本海側の留萌と太平洋側の釧路を結ぶ直線の北側)の占領計画があったことはすでに知られている。だが、具体性を持った作戦だったとは伝えられてこなかった。スターリンが北海道北部の占領計画を、クリール諸島(千島列島)支配の駆け引きに使ったという見方があったからだ。「そうではない。スターリンは、北海道もクリールも、という野心があった」と指摘するのは、歴史学者長谷川毅だ。アメリカの市民権を持ち、ロシア史の博士号を持つ日本人長谷川の、『暗闘~スターリン、トルーマンと日本降伏』から教えられることは多い。
 
アメリカ大統領トルーマンの強い拒絶に遭って、スターリンは北海道作戦をあきらめざるをえなかった。北海道北部とクリール諸島(千島列島)がどちらも占領できれば、宗谷海峡、オホーツク海をソ連の完全な内海にできる、と踏んでいた計画は台無しになった。また、北海道の北半から動員しようと企てていた50万人の労働力が絵に描いた餅になった。
 ソ連が北海道作戦を放棄したことは、将来の日ソ関係にかかわる二つの重要な結果をもたらした。第一はクリール諸島占領がソ連にとって、一層重要な軍事目的になったことであり、第二は、満洲、朝鮮、樺太、クリールでソ連軍に直接降伏した日本人捕虜の運命が決まったことだった。不足した労働力を補う目的で、64万人の日本人捕虜がソ連辺境の強制収容所に送り込まれ、10年以上の強制労働の結果、6万人以上が現地で死んでいった。兵士の本国帰還を規定したポツダム宣言違反は明らかだ。

 トルーマン、スターリンの駆け引きはめまぐるしかった。8月22日の書簡で、クリール諸島がソ連の固有の領土だとほのめかしたスターリンに対して、トルーマンは強硬な回答を送った。「私はソ連共和国の領土について言及したのではない。私は日本の領土であるクリール諸島について言及したのであり、その帰属は講和会議で決定されなければならない」(長谷川毅)
 スターリンはこの返答を8月27日に受け取った。しかし、30日になるまで回答しなかった。「この3日間はソ連の南クリール作戦にとってもっとも決定的というべき期間であった」(長谷川)からだ。スターリンは、9月2日に東京湾の戦艦ミズーリ号上で予定されていた日本のポツダム宣言受諾署名までに、是が非でも北海道本島の手前までを全て支配下に入れようと、なりふり構わず現地軍の尻を叩き続けた。
 ところが、日本固有の領土である南クリールの択捉島に北隣する得撫島を、ソ連軍は攻めあぐんでいた。食糧が尽きていたことがひとつ。得撫島駐留日本軍に関する情報が全くなかったことがひとつ。そして、得撫より南の島々がアメリカ占領下の日本領土であるとの認識から、得撫にも米軍機が飛来してくるかもしれないという恐怖がひとつだった。実際、得撫占領作戦にあたった警備艦ジェルジンスキーは、占領を終えて北に向けて引き返した。
択捉、国後の占領は、樺太の大泊から向かった二隻の警備艇に任された。択捉では6千人の日本軍が整然と降伏したが、ソ連軍の最初の質問は「この島にアメリカ軍はいないのか」だった。国後占領は数時間で終わったが、すでに9月1日になっていた。
 歯舞、色丹は地政学的にも北海道の一部だが、ソ連は勝手に小クリール群島と呼び、これらも占領しようとした。色丹は9月1日に押さえられた。歯舞はまだ確保されておらず、その任務にあたる別の部隊が国後島に終結したのは9月4日。ミズーリ号上での調印式からすでに2日を過ぎていた。

 スターリンの狡猾さにはあきれるばかりだが、ソ連軍がまだ戦闘を中止していない8月20日の段階で、大本営がすべての軍に対して、ソ連と休戦し武装解除の交渉をはじめよと命令したのは、私見だが愚の骨頂と思う。最後の一兵になっても戦うと強がっていた軍隊が、蹂躙されてゆく領土と邦人を前にして、なぜ素直に武器を置かなければならなかったのか。樺太真岡などで応戦した日本軍部隊もあったが、勝算もなく無謀な戦争に踏み切り、最後は駆け引きらしい駆け引きもなく戦旗を下ろした、不甲斐ない日本軍上層部こそ、失われた領土を生んだ真の元凶なのだと、あえて付け加えておきたい。
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Author:Ikkey52
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父方は、奈良十津川郷系+仙台伊達藩亘理系。母方は東三河豊橋系+肥前鍋島藩系+加賀藩系

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