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所沢と雲仙の蹉跌

Posted by Ikkey52 on 22.2011 ジャーナリズム   0 comments   0 trackback
  福島第一原発事故に関するテレビ報道について、送り手、受け手の双方から、さまざまな検証が始まっている。示唆に富んでいると感じたのは、朝日新聞の月刊誌『journalism』6月号に掲載された金平茂紀論文「原発とテレビの危険な関係を直視しなければならない」。「危険な関係」とは、原子力利用を巡る〈官-政-業-学-報〉の癒着の意味だが、ここでは触れない。金平は、TBSテレビで報道局を担当する執行役員の立場から、在京民放の原発取材マニュアルやNHKの内部文書を入手し、読み込んだうえで、多角的にテレビ報道の問題点を列挙している。
 もっとも重要だと思われるのは、企業に属するテレビジャーナリストの間で、「取材には常にリスクが伴う」と考える報道の論理よりも、リスクを最小化しようという企業防衛の論理が優先されてしまっているという指摘だ。たとえば、「発表ジャーナリズム」。政府や東電、原子力安全・保安院の言い分を垂れ流し、ろくな検証も加えてこなかった。結果として、早いうちに起きていたメルトダウンは長い間ひた隠しにされた。レベル7の危機であったのにレベル4だという言い逃れをずっと許してきた。メディア企業として、パニックの火元になりたくない、という防衛本能が先立ち、独自取材を犠牲にし、取材源の権威に寄りかかることで体裁を繕った。
 企業防衛の論理は、各社の原発事故対応マニュアルにあらかじめ色濃く反映されていた。在京民放のマニュアルでは、取材の自主規制線を原発から40キロ圏外におくのが相場という。国による避難指示、屋内退避、自主避難の線引きより、もっと引いたところにメディアの自主規制線がある。取材者を住民よりもっと安全な場所に置こうというお粗末な発想を、一般の国民は知る由もない。NHKの内部文書はもっとあきれ果てる。「取材を続けるかどうかは政府の指示に則り判断する」としているという。自主自律などどこ吹く風だ。そこには政府の判断が正しいのか、チェックしようという視点がすっぽり欠け落ちている。こんな連中に、だれが国民の知る権利の代理行使を頼むというのか。

 日本のテレビジャーナリズムで、企業防衛の論理が、報道の論理に優先される転換点はどこだったのだろう。私には思い当たることが少なくともふたつある。ひとつは、1999年2月に勃発したテレビ朝日のニュースステーション「ダイオキシン報道」問題であり、ひとつは1991年6月の雲仙普賢岳大火砕流発生によるマスコミ関係者16人の死である。
「ダイオキシン報道」問題は、コメンテーターの選択を保守化させた。
 埼玉県所沢周辺の農産物がダイオキシンに汚染されている、と民間の調査機関、環境総合研究所のデータをもとに、ニュースステーションが報道し、それによって、風評被害を被ったとする農家が、集団でテレビ朝日と同研究所を名誉棄損で提訴。一、二審は農家側が敗訴したものの、上告審が不可解な差し戻し判決を出し、結局和解が成立した。番組に生出演した環境総研所長は、国や地元農協の怠慢を独自データに基づいて告発する役回りを担ったが、原告農家はダイオキシン発生源である産廃業者を撃たずに、警鐘を鳴らしたメディアに噛みついた。この訴訟のトラウマは大きく、「正しいことを報道しても、後ろから鉄砲で撃たれるのであれば、踏み込んだ告発型のコメンテーターなど使えない」という萎縮が、作り手の側に蔓延した。安全神話の信奉者が集まる原子力ムラからしか、コメンテーターを求めなかった歪んだ各局の福島第一原発報道の根がここにある。
 雲仙の噴火災害は、自主規制を金科玉条にさせ、意欲ある記者の足を止めさせた。
記者、カメラマンだけでなく、チャーターしたタクシー運転手らも含めれば、20人もが一瞬で火砕流に呑みこまれた雲仙の事故は、日本ジャーナリズム史上最悪の惨事で、犠牲者を出したメディア企業は再発防止策のとりまとめに追われた。そのなかで「危険を完全に排除するためには、自主規制を事細かに盛った取材マニュアルをつくり、現場に問答無用で厳守させるほかない」との答が用意され、記者クラブ的な横並び意識も手伝って定着したのだろう。倒錯は明らかだ。職業としてリスクを伴うジャーナリストを律しようとして、一般的な人命第一主義を持ちだせば、現場で事実究明の矛先が鈍るに決まっている。福島第一原発の事故報道で、テレビジャーナリズムにいま問われているのは、国民の知る権利に奉仕するという使命を果たすうえで、明らかに阻害要因となっている取材マニュアルを相対化させること。そして「記者の現場はすべてケースバイケース」という大原則に立ち返ることでないか。

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Author:Ikkey52
ジャーナリスト 札幌生まれ
父方は、奈良十津川郷系+仙台伊達藩亘理系。母方は東三河豊橋系+肥前鍋島藩系+加賀藩系

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