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香辛料としてのKGB

Posted by Ikkey52 on 26.2011 エスピオナージ   0 comments   0 trackback
 モスクワの中心部、クレムリンや赤の広場からそう遠くないところに、がっしりとした石造りの黄色っぽいビルがある。旧ソ連時代KGB本部だったところだ。はじめて通りかかったときの、ぞくぞくする感じを忘れない。チェカ-GPU-OGPU-NKVD-KGBと組織名が変わったソ連時代、秘密警察、情報機関という影の権力組織の根城であり続けた。そして新生ロシアの政権のもとFSBと呼ばれるようになった今日でも、やっていることは変わらない。
 ソ連が崩壊するまで、このKGB本部の前には創始者であるジェルジンスキーの銅像がデンと聳えていた。KGB本部に付属する監獄の名「ルビヤンカ」はスターリンの大粛清時代、市民の間で、そのまま「死」を意味した。イギリスのロンドン塔やカンボジア・プノンペンの虐殺博物館など、現存する建物で血塗られた歴史を持つところは数あるが、KGB本部ほど血なまぐさい建物は他にないと思う。
KGB対MI-6(イギリス対外情報部)という対立軸は冷戦期の典型的な構図で、スパイ小説の定番だ。イアン・フレミングの傑作、「007」シリーズのリアリティは、主人公ジェームス・ボンドがKGBと戦うことで担保されていた、といってもいい。
 KGB本部の横に「子供の国」というおもちゃのデパートがあって、ソ連と敵対する国のスパイが、大胆にも売り物のぬいぐるみを使って連絡を取るという、冷戦真っ盛り時代を背景にした小説があった。灯台下暗しのスリルだ。そのおもちゃ屋が実在しているのを知ったとき、なぜかほっとした。スパイ小説好きの習性として小説の90%は実話であって欲しいのだ。
 MI-6のさえない中年スパイが活躍するフリーマントルの「チャーリー・マフィン・シリーズ」は回を重ねるうち、主人公がKGBの美貌の女性幹部と転勤先のモスクワで秘密の所帯を持ち、子供までもうけるところまでエスカレートしているが、対立国のスパイ同士の情報交換は冷戦期に頻繁あったのは事実らしい。
小説家のフリーマントルは、米ソ対立の暗部を構成したCIAとKGBの実像について、それぞれ詳細なノンフィクション作品をものしている。『KGB』(新潮選書)は、80年代の本だが、資料をまとめるのに何度も読み返し、随分お世話になった。
 KGB本部前に銅像があったジェルジンスキーは、革命の元勲のひとりに数えられるが、ポーランドの貴族出身という変わり種。ポーランドは革命前、ロシアの版図に入っていた。恨まれ役、敵役にあえて本国人以外を器用したのはレーニンの人事の妙か。
 時の権力に奉仕する陰湿な秘密警察という伝統は、革命ロシアに始まったわけではない。帝政ロシア時代にはオフラーナと呼ばれる強力な秘密警察が存在していた。オフラーナは逃亡革命家を狙いアメリカにもヨーロッパにも追っ手を放ったというから、その後の歴史を踏まえればなんとも皮肉な話だ。ロンドンでいっとき学者に成りすましていたレーニンも、オフラーナのために枕を高くして眠れなかったと伝えられる。
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